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アプリ市場におけるカタリストはなにか

2020.08.06

前回のブログでは、アプリの将来性とデータの重要性を提起し、下記の3点を注視することがアプリ事業者さまに求められていると結論づけました。

 

  1. アプリの特性とユーザーの潜在的なニーズを良く理解すること
  2. データによるユーザー理解を深めること
  3. データによるサービスの質の向上を行うこと

 

今回は、上記のうち「1)アプリの特性とユーザーの潜在的なニーズをよく理解すること」をさらに深堀りし、2019年に台頭しはじめたスマホ決済アプリを具体例に「アプリの特性とは何か」「いかに潜在的ニーズを捉えるか」を解説いたします。

 

ポイント
  • アプリが持つ最大の特性は、顧客との継続的に密なコミュニケーション。
  • アプリによって実現される周辺環境だけでなく、広く社会や地域を見つめ、環境とひとを分析することが必要。それぞれがアプリ市場に変化をもたらす。
  • アプリ事業者さまは、解決されるべき潜在的ニーズを、アプリ特性にあった方法で解決していくことが求められている。

 

アプリの特性

 

アプリ化がもたらす利点として、顧客との継続的に密なコミュニケーションが実現されることが挙げられます。

 

「コミュニケーションとメディア」

人間のコミュニケーションは、図1のように時代を追うごとに「1対1」から「1対多」、「多対多」へ変容しています。

 

図1「コミュニケーション・メディアの変容」

筆者作成

 

「1対多」と「多対多」の最大の違いは、コミュニケーションの双方向性にあります。例を挙げると「1対多」のメディアである書籍では双方向性は担保されていません。

 

一方、「多数 – 多数」のメディアであるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)では、受信者、発信者問わず情報が行き来し、双方向性が担保されています。

 

このコミュニケーションの双方向性の最大の利点は、発信される情報がそれぞれの受信者によってカスタマイズされることにあります。さらに、受信者が意見を述べることができる仕組みが情報の信頼性を高める働きをします。

 

このような背景がありつつ、図2に示したように、人々はテレビや新聞、ラジオといった一方向なメディアではなく、インターネットという双方向なメディアを利用することが多くなっています。

 

図2「主なメディアの平均利用時間比率の推移(日本)」

「総務省(2019)」より筆者作成

 

以上の点から、我々は知らず知らずにうちに双方向のコミュニケーションを求め、利用していると言えるでしょう。

 

「ウェブとアプリの違い」

インターネットを利用したメディアは、ウェブとアプリに大分できます。では、ユーザーはどちらをどのように利用しているのでしょうか。

 

comStore(2016)によれば、図3に示したとおり、モバイルウェブとアプリの訪問者数と利用時間をそれぞれ比較すると、訪問者数では、モバイルウェブがアプリの約3倍を示しています。一方で利用時間では、アプリがモバイルウェブの約20倍となっています。

 

図3「モバイルウェブとアプリの訪問者・利用時間比較」

「comScore(2016)」より筆者作成

 

以上の点から、それぞれの以下のような特性を見ることができます。

 

  • モバイルウェブは、訪問までのハードルが低く、利用する時間が短いツールであり、新規ユーザーにサービスに触れてもらう目的が適している。
  • アプリは、訪問(インストール)までのハードルが高く、利用する時間が長いツールであり、既存ユーザーにサービスを続けてもらう目的が適している。

 

「継続的に密なコミュニケーションを実現するアプリ」

前述のとおり、我々は双方向のコミュニケーションを好みはじめています。また、アプリは、訪問(インストール)までのハードルが高いものの、利用される時間の長いツールであり、継続的に密なコミュニケーションが実現できています。
アプリは、プッシュ通知やアプリ内のポップアップなどを用いて能動的にユーザーとコミュニケーションを図ることができます(図4)。プッシュ通知はスマートフォンのロック画面に情報を表示させ、アプリを起動させるものであり、ポップアップはアプリ上の最前面に情報を表示させ、特定のユーザー行動を促すものです。それぞれの施策は、ユーザーがデバイスを所持していれば、能動的にコミュニケーションを図ることできます。またそれぞれの施策について、ユーザーの属性やアプリ内の行動によって表示させるか否かを判断することができます。アプリはユーザーとアプリ事業者との双方向性を保つツールと言えます。

 

図4「プッシュ通知とポップアップ」

筆者作成

 

アプリの特性は「ユーザーとの継続的に密なコミュニケーションが図れること」であると同時に、ユーザーがアプリに求めていることも同様であることが分かりました。

 

潜在的なニーズの分析

2019年、多くのフィンテック系の新興企業や大手金融機関などが、最も我々の日常生活に溶け込む「決済」をアプリで解決しようとアプリ市場へ参入してきました。しかし、スマホ決済アプリは、現在まで苦戦を強いられていると言わざるを得ないでしょう。実際のところ、「スマホ決済アプリ」が振興した2019年時点でも、およそ27%と依然として低水準のキャッシュレス比率に留まっています。その背景には、潜在的なニーズの見誤りがあったのではないでしょうか。消費者にとっての利点はあるものの、それを啓発し「モバイル決済」を日常に溶け込ませることができていません。

 

今回は「いかに潜在的ニーズを分析するか」について「スマホ決済アプリ」を題材として分析していきます。アプリによって実現される周辺環境だけでなく、広く社会や地域を見つめ、環境とひとを分析することが必要です。それぞれがアプリ市場に変化をもたらすと言えます。

 

「日本におけるモバイル決済」

図5で示すとおり、日本におけるキャッシュレス化はなかなか進んでいません。多くの先進国ではキャッシュレス比率が2016年時点で4割を超えていたのに対し、日本ではたった2割です。さらに多くの「スマホ決済アプリ」が振興した2019年時点でも、27%と依然として低水準でした。

 

図5「諸外国のキャッシュレス比率」

「一般社団法人キャッシュレス推進協議会(2019)」及び「経済産業省(2020)」より筆者作成

 

経済産業省(2020)が言及しているとおり、消費者の利便性向上、店舗の効率化・売上向上、データの利活用などキャッシュレス化には利点があります。さらに、2019年以降に日本市場において、さまざまな「スマホ決済アプリ」が参入し、大規模なキャンペーンが行われました。それらはアプリやサービスの認知を高めることには繋がりましたが、日常生活に溶け込むには至っていません(図5)。

 

「日常生活へ溶け込ませる」

「スマホ決済アプリ」の最大の挑戦は、決済をアプリで(スマホで)完結させようとするものです。決済、つまり価値の交換の方法は、元来紙幣や硬貨が担ってきていました。現代においては、それらが一部クレジット(信用)を介するようになったものの、特に日本では、紙幣や硬貨を介した決済が未だに中心となっています。「現金以上に『スマホ決済アプリ』を日常生活へ溶け込ませること」が必要不可欠になっています。

 

では、そこにニーズは存在したのでしょうか、またそれらをどのように分析すれば良いのでしょうか。

 

「ニーズは存在したか」

前述の通り、消費者の利便性向上、店舗の効率化・売上向上、データの利活用など利点は多いものの、そこにニーズがあったとは直ちに判断できません。図6で示した通り、決済は別の方法で実現されており、それに取って代えるだけの利益が消費者にとってあったとは現時点では言えないからです。

 

図6「決済方法の要素分解」

筆者作成

 

現在決済の際して用いられる方法は、「紙幣・硬貨」「信用(クレジット)」であり、そのデバイスとして「紙幣・硬貨」「物理カード」「スマートフォン」に分けることができます(図6)。このように今まで使っていた手段に満足しており、より利便性が高い手段を用いようとしないことを、経済学では「ロックインされ、スウィッチングコストが高い」と言います。

 

ロックインとは「ある財を使用した消費者がそのままその財を使用し続けること」と定義されていて、パソコンのキーボードなどが良例です。またスイッチングコストとは「消費者が財を変更することに伴う会計上では計上されない費用」と定義されています。

 

キーボードのQWERTY配列はタイプライターを用いていた時代に発明されました。合理的に計算されていない配列ですが、そのQWERTY配列が普及しているために、より合理的な配列が発明されていても取って代わることができないという状況があります。

 

また図5で示した通り、日本のキャッシュレス比率が諸外国と比べて著しく低いのが現状です。その背景を酒巻哲朗氏は、諸外国と比較して、キャッシュを通じた決済に留まらせようとする「治安の良さと犯罪率の低さ」などを主因として挙げています。さらに、キャッシュを通じた決済に回帰させようとする「自然災害の多さ」なども例として挙げられます。
日本においては、2019年の「スマホ決済アプリ」事業者による積極的なプロモーション活動によって認知はされているはずです。このような点を鑑みると、現時点では、利便性は理解されているものの、紙幣や硬貨に取って代わるだけのニーズはないと言っても良いのではないでしょうか。もちろん、我々は、様々な観点からキャッシュレス化は推進されるべきであると考えています。

 

「かんじょう(勘定・感情)を理解する」

上記事例でも分かる通り、利便性だけで普及(=日常に溶け込む)は為しえません。そこにはニーズ(=需要)が存在する必要があり、それを生み出しているのは社会であり、個々人です(図7)。

 

図7「経済のカタチ」

筆者作成

 

アプリが日常生活に溶け込み利活用されていくためには、2つの観点が必要であり、それらが「かんじょう」です。
ひとつが「勘定」であり、金勘定(もしくは損得勘定)のことです。これらは定量的で理解が比較的簡単です。もう一方が「感情」であり、人の気持ちのことです。これらは定性的で理解が難しいです。これらをマーケティング側、プロダクト側から正確に理解しようとすることが、アプリの特性を踏まえると重要です。

 

まとめ

アプリの特性は「ユーザーとの継続的に密なコミュニケーションが図れること」でした。また、潜在的ニーズは広範に分析されるべきでしょう。加えて、アプリ事業を行う上では、マーケティング側とプロダクト側で「かんじょう(勘定・感情)」を揺さぶっていくことが重要です。

 

我々はマーケティングからプロダクトまでを伴走するサービスを提供しています。
今後リリースされるレポートでは、前回のブログでも言及した、アプリ事業者に求められる下記2点をより深く科学していきます。

 

2)データによるユーザー理解を深めること

3)データによるサービスの質の向上を行うこと

 

今後もどうぞご期待ください。

 

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参考文献

1.一般社団法人キャッシュレス推進協議会(2019)”キャッシュレス・ロードマップ 2019”, 一般社団法人キャッシュレス推進協議会
2.経済産業省(2020)”キャッシュレスの現状及び意義” ,経済産業省
3.酒巻哲朗(2019)”デジタル経済の進展と支払手段の多様化”, 財務総合政策研究所『「デジタル時代のイノベーションに関する研究会」報告書』, 財務省, pp 7- 26
4.総務省情報通信政策研究所(2019)”平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査”, 総務省
5.総務省(2019)”令和元年度版 情報通信白書”, 総務省
6.総務省(2018)”平成30年度版 情報通信白書”, 総務省
7.総務省(2017)”平成29年度版 情報通信白書”, 総務省
8.福本勇樹(2017)”日本のキャッシュレス化について考える”, ニッセイ基礎研究所
9.App Annie(2018)”データで振り返る iOS App Storeの10年”, AppAnnie
10.App Annie(2019)”モバイル市場年鑑 2019”, AppAnnie
11.App Ape(2019)”Mobile Market White Paper 2019”, App Ape
12.App Ape(2018)”Mobile Market White Paper 2018”, App Ape
13.comScore(2016)”The 2016 U.S. Mobile App Report”, comScore

 

今後について

当社ではこれまで培ってきたモバイルアプリ事業支援の知見を元に、取得したデータを蓄積するだけでなく、事業成長に寄与する実践的なデータとして活用できるよう支援し続けております。そして、今後も各社様のアプリ分析を通じて事業成長を図る上で、重要なKPIの抽出や目的に合わせたマーケティング予算の適正な投資判断、アプリ内マーケティングの活用方法などアクティブユーザーを上げる為の解決策を幅広くご提案してまいります。
また、研究結果を基にしたアプリ事業者様向けのセミナー等も企画をしており、様々な形でスマートフォンアプリ市場の成長に寄与できるよう尽力してまいります。
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